第169号   愛命園だより「あゆみ」   平成27年10月


察する力
園長 林 弘子

 もうかなり前のことになります。こんな話を聞きました。
 ある学校で明日が休みという日、校長先生が若い先生に言われました。
「うさぎ小屋を見ておいて下さい」
 休みが明けました。うさぎ小屋は、イタチかテンに襲われ、無残なことになっていました。
「うさぎ小屋を見てくれたのではないですか」と問う校長先生に、若い先生は答えました。
「はい、見ました。穴はあいていました」
 最近、これとまったく同じようなことを、「毎日新聞」日曜版に海原純子先生(日本医大特任教授)が書いておられるのを目にしました。
 会議中に部屋に風が入り肌寒いので、アルバイトの女性に声をかけられたそうです。
「となりの部屋の窓があいていたかどうか、ちょっと見て来て下さい。寒いですから」と。「はい」といい返事が返ってきたそうです。しかし、依然として寒いまま。会議が終わってとなりの部屋を見に行くと、窓は全開。びっくりして先程の女性に「え、窓を見てくれたんじゃないの?」と聞くと、「はい、見て来ました」
 海原先生は驚かれました。確かに見てきたのです。しかし寒いから窓を閉めてくれとは言われていないので、そのまま帰ってきたのです。こういうことでびっくりしてはいけないと、ある大学院生の例も載せておられました。
 まさしく、先の学校のうさぎ小屋事件と同じ次元のできごとです。校長先生はその時、
(1)「うさぎ小屋を見ておいて下さい」
(2)「穴があいていたら、ふさいで来て下さい」
(3)「それを報告して下さい」
と、一つ一つステップを踏んでお願いしなければいけなかったということになります。
 私達の年代の者には「エーっ」ということです。「察する」いう力は、時代とともに弱まっているのでしょうか。
 「察する」ということは、人間関係でも仕事上でも非常に重要なことです。とりわけ、私達は、自分の意志をうまく伝えられない利用者の方々を相手に仕事をしています。一日のうちの一部の時間ではないのです。朝から晩まで生活の場で、自分の訴えたいことを職員がうまくキャッチして、的確な対応をしてもらえなかったら、どんなにか腹立たしいでしょうね、悲しいでしょうね。不適応行動の一つも現れるでしょうね。
 それでは、「察する力」はどうやったらつくのでしょうか。介護技術のように、定期的な職員研修会で上達するものでもありません。日々利用者と接する中で、「えっ、そういうことだったのか!」とひらめく瞬間があるはずです。しかし、これも職員側の感受性の問題もあり、決定打とは言えません。しかし、日々の業務が単に日程をこなすことに終わるのではなく。職員はアンテナを高く掲げて、物言わぬ利用者の声なき声や思いを受け止めてほしい、既に高く掲げている人も、折にふれてくもらないように磨いてほしいと、切に願うものです。ここは、利用者の皆さんにとって「わがや」なのですから。



今年は戦後70年
家族会役員 池田 はやみ

 今年は日本各地で大変なことが起きました。大雨による水の被害で川が氾濫し、家が流され、町中が水に浸かり、又、あちこちで火山の噴火等様々な出来事がありました。
 自然が相手なので避けることが出来ません。自分たちが出来る事、自然を壊さない、汚さない。今まで便利さや、楽しさだけを追って来たせいもあるのではと…
 今、私は孫の学校のPTAでコーラスの練習をしています。「アオギリの木の下で」と言う広島の原爆で被爆した方のお孫さんでメティスさんという方が作曲した曲で、原爆が落とされた時、皆普通に生活していたのに、話していた時、笑っていた時、それが一変してひどく恐ろしい状態になっていた。
 でも世の中はどんどん変わって行き、いつのまにか便利さや楽しさ優先になってきました。「アオギリの木の下で」の歌詞の中に「機械が心の在りかを忘れさせる。便利が自由を変えてゆく」とあります。今の私たちは何か忘れているのではと、そんな気になりました。
 昔を思い出しながら、今やらなくてはならない事、やってはいけない事をお互いが相手を思いやり、協力し合い、世界中の人が手を取って、戦争のない世の中にしていったらと思います。
 もう一つの歌が「OLA!!」と言って、ボタンのかけちがいで仲たがいしてしまったけど、お互い素直になろうと、本当は大好きな友達だよと。間違っていたのは自分だったと気づく。とてもいい歌詞です。まちがいはあります。相手を許したり、自分も反省したり、皆、ひとつの事を追い求めているんではないかと思いました。
 平和な日々を送る事の大切さ。戦争が終わって70年経ちました。「あやまちはくり返しませぬから」を歌いながら平和を願っています。



寺尾文尚先生のお話を拝聴して
サービス管理責任者 高橋 義彰

 平成27年9月24日、広島県知的障害者福祉協会 人権・倫理部会の出張講座の一環として、ひとは福祉会より寺尾 文尚先生にお越し頂き「福祉の現場に立つ私たちの誇りと責任」をテーマにご講義いただきました。人と人との関係について、心の通った係わりの大切さを教わり、大変胸が熱くなる思いでした。研修後も職員同士で、利用者の食事のこと、排泄のこと、人としての役割りのことなど、小さなことからですが『寺尾先生の話にもあったじゃないか!もう一度見直してみよう。』と各所で小さな芽が出始めています。以下数名の感想をご紹介いたします。

生活支援員 迫田 大
 人権や虐待など、福祉の現場で働くうえで、改めて考える機会となりました。障害者支援施設で働き始めて半年になりますが、仕事を覚えるという意味で「知識」「技術」を身につけることに必死でした。お話の中で「もちろんこれらも大切であるが、それに倍して人間力が必要です。」と話され、その中でベッドで介助を行う際、利用者が支援者の支援しやすいように腰を浮かしたことなどのお話を聞いた時には驚きました。自分が支援している時に、このような利用者の行為に気づいているだろうかと思いました。利用者に支援するとき、利用者なりの精一杯の力を汲み取ること、この努力を見ることができない支援者が重症であることを痛感しました。そういう意味で利用者も支援者も同じなのだと思いました。


生活支援員 荒木 美恵子
 先生のお話の中で、支援者は利用者の味方になる気持ちが必要と話されたこと、支援者は利用者の訴えや願いをしっかりと受け止めることだと思います。ちょっとした言葉でも安心するし不安にもなると私自身でも感じています。利用者の味方になるということは私の味方にもなってもらえます。意志疎通ができ、ちょっとしたことでも感じることができます。人生経験の中から、利用者の味方、嬉しいこと悲しいこといろいろな気配りをしていきたいと思います。

生活支援員 沖田 美穂
現場の実情が分かったうえでのお話だったので、伺いながら「あるある」と施設での日々の様子を思い浮かべながら聞いていました。その場面に直面しても、でもこうだからと言い訳の連続であることを改めて見直さないといけない事と感じています。そして何事も問題に対して見て見ぬふりではなく微力ながら小さな声を上げていく勇気を持ちたいと思います。

相談支援専門員 沖田 幸久
 かつて我々も障害者の幸せは障害を克服し暮らすことだと信じて(教えられて)反復訓練を繰り返す日々に何の疑問も持っていませんでした。職員の名称も指導員で、訓練の成果を上げることに執着していました。その訓練の成果も本人のモチベーションと指導者のさじ加減でどうにでもなり、真に本人の能力を表わしている訳ではないことも感じながら仕事をしていました。当事者にとってそれは本当に辛かったことを今回改めて知ることができました。無駄な時間を強いるよりも、できないことは支援者にやってもらい本人の好きなことを行っていこうという姿勢に変わり、気持ちがずいぶん楽になったことを思い出します。
今回の講義を聞かせて頂き、利用者の強みを生かした支援を行うよう気持ちを新たにすることができました。ありがとうございました。

非常勤生活支援員 三宅 千代子
 お話を聞かせて頂き福祉の現場には、知識も技術も必要ですがそれにも倍して人間力が必要だと言う事を改めて痛感いたしました。
 まず利用者の気持ちが個々で感じ方・受け取り方が違う事を理解し、相手の気持ちに寄り添って「何をしてほしいか何をしたいのか。」をじっくり話あっていかなければいけないと思います。堅苦しい話ばかりでなく雑談しながら野球や食べ物の話・テレビの話など相手の気持ちの中に入れるように私達も日々情報収集も必要だと思います。マニュアル通りにしなければと言う思いが反って利用者の気持ちを無視してしまっているではないかと思いました。
 如何に利用者の想いに共感し利用者主体の生活が送れるように支援ができるか、日々考えて頑張っていきたいと思います。



夏まつり
生活支援員 梅田 大作

 昨年は台風接近の為、残念ながら中止になってしまった「愛命園夏祭り」が、今年は8月8日土曜日に盛大に開催されました。
屋台のメニューも豊富で美味しく、利用者の皆さんもいつもよりも多く食べておられました。
 恒例となった水内神楽団の皆さんによる勇壮な舞を近くで楽しむことができ、大変喜んでおられました。
 最後に、全員参加の盆踊りで、炭坑節と阿波踊りを踊り、楽しむことが出来ました。
 今年も福祉専門学校と富士産業の多くの方々にボランティアとして手伝っていただき、行事を成功させることができました。ありがとうございました。



ススキ採取・配布
生活支援員 上 正輝

 ススキ採取・配布行事は今年で40回目になりました。採取の前日まで台風や大雨がありましたが、当日は天気も回復し、天上山にも大雨の影響が少なく採取に向かうことが出来ました。目的地に向う途中ススキの数が少ないように感じましたが職員が一丸となり例年並みのススキを刈り取ることが出来ました。刈り取ったススキの整理は、利用者のご家族に協力していただき、スムーズに整理することが出来ました。
 八丁堀福屋デパート前での配布では、利用者のご家族にも参加していただき、福屋広報部の方も準備から手伝って下さいました。配布が始まると一束一束包んでいただいたり、「今年も湯来町から秋をお届けに参りました。」「只今、準備しております。しばらくお待ちください。」など何度も大きな声で呼びかけをして下さいました。今年は初めて参加した利用者もいて、声を出したり、笑顔でススキを渡してくれたりしました。「いい経験になった」「楽しかった」とのことです。今年は通行人が例年より少ないように感じました。途中、ススキの束が山になる場面が有り、精一杯声を出して足を止めていただき配りました。
 今年は中国新聞の方の取材が有り、利用者の方も嬉しそうに取材に答えていました。翌日新聞に写真も載っており、配布に参加した利用者は大喜びでした。歩行者の中には仕事の休憩中の方や、買い物途中なのかススキを貰うのを悩んでいる方などおられました。配布が終了した後「もう終わったの?今年も気にしていたけど残念だわ、来年また気にしてみますね」など言ってくださった方もおられ毎年待って下さる方、後日お礼の手紙を愛命園に送ってくださる方々にふれ、長い間続いた行事の今までの積み重ね、あり方に感慨深いものを感じました。
 地域の方、利用者の家族、利用者、職員の多くの方の協力をえることが出来、今年も無事に行事を終えることが出来ました。ありがとうございました。



1係活動物語
〜事件は畑で起きた。野菜たちの悲劇〜
生活支援員 益成 純也

 季節はもう秋で朝も夕と涼しくなってはきましたが、夏場は暑い日が長く続いていたように感じます。やはり天候の影響も大きいかと思われますが、今年は利用者も職員も活動で頻繁に動き回っていたなおの事暑く思えたのではないでしょうか。
 春から始まった歴史の学習会。縄文弥生時代から始まり、大昔はどんなものを使って人々は暮らしていたのか学んできました。活動時間を使ってそれぞれのオリジナルの勾玉ネックレスを作ったりもしました。時間をかけて丁寧にゆっくり石を削って磨いてを繰り返し、出来上がった勾玉ネックレスを早速首にかけ記念写真を1枚。
自分で作ったものだからか皆さん笑みがこぼれていました。夏にはレンガ通りでそうめん流しをしました。竹は近くの山から取りにいきよいしょよいしょと運びました。その姿はまるで竹取りの翁のようにも見えますね。切った竹で器や箸、流し台を作って流れる水の上へそうめんを落とす。流れているそうめんをすかさずキャッチ!夏ならではの風流を感じる時間を堪能できたのではないでしょうか。
 さて、この夏は毎年のことながら暑い日々が続いていましたが、夏の活動のメインともいえる畑仕事での利用者と職員の活躍を皆さんへ報告させていただきます。今回畑では、ナス・トウモロコシ・スイカなど様々な野菜を植えて育てました。暑い日々が続いたとはいえ天候には恵まれて野菜もすくすく順調に育っていました。もうそろそろ収穫かなっと思った矢先、事件が起こりました。そう皆さんもご存知かと思われます。お猿さんの襲来です。ハウスには網が張っていましたが、賢いお猿さんの仕業か網は破れており収穫間際となった野菜たちは見事にお猿さんの胃袋の中へ・・・。お猿さんも生きるためには仕方がないとは言え、残念ながら今年の収穫量は例年よりもはるかに少ない量となってしまいました。ですが、利用者の皆さんが食べられるだけの量はなんとか採ることができました。お猿さんもそのあたりは空気を読んでくれたのかな?そして8月にはなんとか無事に収穫祭もできバーベキューで美味しくいただくことができました。愛命園の利用者と職員で一生懸命育てたみずみずしく美味しい野菜たちを利用者が食べられたことはなにより幸いです。
 畑も季節が変わり秋になればさつまいものシーズンに突入します。秋の焼き芋大会が今か今かと待ち遠しいですね。でもその前に…お猿さんからの被害を減らすためにもハウスの網を強化しとかないといけませんね。みんなで守ろう畑と野菜!



第2支援活動報告
腸活体操について
生活支援員 沼座 洋

 生活班では職員のピアノに合わせて毎日歌を歌ったり、リハビリを兼ねて体を動かしてもらうリトミック体操等の活動を行っています。
 少しずつですが、高年齢化に伴い今まで歩かれていた方が車椅子の方になられたり変化が顕著になってきている様子です。2か月ほど前から新しい試みを取り入れています。それは腸活体操です。便秘気味の利用者のために排便を促す体操です。「大きな栗の木の下で」の歌に合わせて足を上げたり、両手を肩に交差させウエストひねりやお腹に力を入れてもらい押し合う体操を3種類ほど取り入れてほぼ毎日行っています。利用者さんは新しい事が苦手ですが、行う回数を重ねることで慣れて動きもスムーズになりました。最近では職員が忘れていると利用者の方から「今日はやらんのか?」など催促されるほど定着してきているようです。これからも出来ることを職員一丸となって模索していきたいと思います。



木漏れ日
〜リレー随想
看護師 湯浅 節

 今回は、湯浅のつぶやき@〜Bを読んでください。
つぶやき@
 今年の夏は暑さと汗だくの日が続き、職場と自宅で「熱中症指数」チェックの日々でした。秋風を感じるようになり、自宅で三段腹と体重チェックの日々です。食欲と体重とBMIは比例して増加し、深まる秋と同じくらい「小じわ」も深みを増し対策が必要になりました。
つぶやきA
 自宅の本棚の中央に貼っているフローレンス・ナイチンゲールの写真を見て元気をもらっています。写真嫌いのナイチンゲールはその生涯で数枚しか写真を残していません。自宅に貼っている写真は、クリミア戦争から帰ってきた頃に写したものです。黒いドレスに白いレースの付襟、髪を短く切った横顔の凛とした姿です。
若い時はナイチンゲールが大嫌いでしたが、看護師の仕事をし、数十年が過ぎた今は、ナイチンゲールが少し身近な人の様に思えます。年を重ね「看護」に対する考え方や視点を少し理解出来る様になったと言う事ですかね。
つぶやきB
 私には自分の人生の最後に伝えたい言葉があります。月並みですが、「私の人生・業(なりわい)は、まんざらすてたもんじゃなかった。こりゃあ〜ナイチンゲールを超えたかもね。お先にね。」です。
ナイチンゲールを超えたなんて大胆な発言は、彼女の書籍には自己決定についての提言が明文化されていないからです。自己決定について少しだけ研究している分だけ、少し強気で表現してみました。最後まで明るい人だねと言われそうです。
最後につぶやきを3個も書かせて頂いた事と、最後まで読んで頂いた事に感謝致します。ありがとうございました。



【寄せられた善意】
[平成27年7月25日〜平成27年10月26日]
(順不同・敬称略)
《現  金》
中山 節子  中本建設株式会社
大原 佳子  渡辺 清恵
前川 昭夫  藤井 貢
後藤 幸生  大成 敏正
橘高 則行  新田 嘉弘
新庄 務   新庄 敏之
藤正 坂二  森井旅館
丸田 和子  谷川 隆子
前田 秀昭  越智 節子

《現  物》
トマト    上手 早苗
タオル    下前 美佐江
ススキに添える花
    藤岡 千恵子、山手 瑠璃子
    上垣 邦子、長峯 公明
    森本 文江、森下 静江
    下前 美佐江、河野 令子
    野上 好子
リハパン   寺西家
ノート    株式会社ユニオン
ぶどう    向井理容室
落語等カセットテープ
    福山市視覚障害者地域活動支援センター
オムロンコンプレッサー一式
       松永 功
食用油    谷川 隆子
みかん    村本 久子
新米     前田 秀昭

《朗読奉仕》
どんぐり会

《読み聞かせボランティア》
新庄 久美子     西山 洋子

※ いつも暖かいご支援ありがとうございます。諸般の事情で掲載を控えさせていただく場合もあります。

『園まつり』開催のお知らせ
今年も恒例の『園まつり』を開催いたします。
今年のスローガン
『園まつり 笑顔でつなぐ みんなの和』
日時 平成27年11月23日(月)勤労感謝の日
    10時〜14時半(雨天決行)
催し物 バザー・利用者作品展示
・模擬店(うどん・ちらし寿司・おでん等)
アトラクション 和太鼓・楽器演奏等
上記の予定で行いますので、お誘いあわせの上ご参加下さい。多数のご来園をお待ちしております。



【編集後記】
一気に秋になりましたね。園まつりが近いことを実感します。 (HY)